Positive Vibration
うちにはプリンターがない。
印刷したいものがあったので、USBにデータを落として、近所のコンビニへ。
印刷機には先客がいた。
ハタチ前後の眼鏡をかけた女性。
秋らしい黒でまとめられた洋服をまとい、少し日本人離れ(日本ではないアジア系)した綺麗な女性。
好みのタイプではある。
急ぎの用でもなく、今日これから何の予定もないので、全然待ちますよ、と少し距離を置いてテレビブロスを立ち読みする。
思えば久しぶり、2、3年ぶりのコンビニでの立ち読みかもしれない。
テレビブロスはこんなに軽いのか。
コンビニの通路はこんなに狭いのか。
自分以外誰も立ち読みなどしないのか。
そんなことを考えながら、豪華なメンツの連載に目を通す。
前半の連載部分をひと通り読み終えてみたが、印刷機の前の女性は一向に終わる気配がしない。
気づけば、彼女は何度も深いため息をついている。
ちらりと横目で覗いてみると、スマートフォンの写真をいろいろ吟味しながらプリントしようとしている。
だが、どうも浮かない顔をしていて、ときおり印刷機にもたれかかるなどして、とても憂鬱そうだった。
あまり他人を見すぎてはいけないので、ふたたびテレビブロスに目をもどす。
オシリペンペンズのモタコも連載しているのか。
録画機器を買ったら、これは定期購読したほうがよいのではないか。
せっかくの祝日の時間を無駄に過ごしているようにも見えるが、これはこれで良い休日の過ごし方のひとつではないだろうか。
などと考えながら、30分ほどかけて気になった記事をひと通り読み終えたところで、やっと隣の彼女に動きがあった。
ようやく彼女は印刷機を離れた。
ただ、すぐに私がそこに入って、待ってました感を見せつけるのも紳士的でないと思い、あとワカクサソウヘイの連載だけ読んでから印刷機に行くことにした。
すると、彼女が店員を連れて印刷機に戻ってきた。
「これって、お札はつかえないんですか」
「そうなんです、小銭だけなんです」
「でしたら両替してもらえますか」
「おいくら分でしょうか」
「えーっと、9千、9千9百6十円ですね」
9960円。
どうりで時間がかかるわけだ。
「おきゃくさまー。
はい、こちらで500円玉、1万円分になります」
500円玉を一枚ずつ印刷機に入れる時にも彼女はため息まじり。
まだ気に入らないことがあるようで、画像を選択しなおしている。
星野源のインタビューも読んでしまうほどテレビブロスも読み切ってしまっていたが、まだまだ時間がかかりそうなので、私は別のコンビニに行き、160円分印刷して家に帰ってきた。
彼女は9千円もかけて何を印刷していたのか。
盗み見たところ写真のようだったが、何のために印刷をしていたのだろうか。
自分用のアルバムだろうか。誰かにプレゼントするためなのだろうか。
もうプリンターを買ってしまった方が安上がりだったのではないか。
さすがにお昼のコンビニであれだけだらだらと印刷するのはいかがなものか。
どうして彼女はあんなにも物憂げだったのだろうか。
しかし、私は、
昔付き合っていた彼女が、スマートフォンで撮った自分たちの写真を、コンビニで印刷し、かわいらしいアルバムにしてプレゼントしてくれたことを思い出した。
さらに、別れた後、私はスマートフォンに入った彼女との写真をなかなか消すことができないでいたが(正直に言うと未だに消せていない)、彼女は全てコンビニで印刷し、写真として取っておいてデータは全て消去した、というのを誰かから聞いたこと思い出した。
なんだ、この出来事は。
誰かに話すにしては面白くもなく、
twitterでつぶやくには字数が足りない。
そこで私はブログを始めることにした。
テレビブロスの影響もおおいにあるが。